建築士が独立・開業するには?年収や失敗しないためのポイントを解説
独立・フリーランス現在建築士として働く人のなかには、独立して自分の事務所を持ちたいと考えている人もいるかもしれません。
独立すると正社員とは大きく環境が変わり、責任や負担が大きくなります。独立後に生計を立てるためには、それなりに準備や手続きが必要です。
独立すれば高収入が得られるという話がよくありますが、独立後の対応や経営力によって収入の差は大きく変わります。
本記事では、建築士が独立する場合に準備するべき項目や独立前の対策、独立のメリットやデメリットについて紹介します。建築士として独立を検討する人はぜひ参考にしてみてください。
建築士が独立するための3つのステップ
ここからは、建築士が独立するまでのステップを3つに分けて紹介します。
- 建築士資格の取得
- 実務経験を積む
- 独立する
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.建築士資格の取得
建築士として独立するには、資格の取得が重要です。
例えば住宅建築の設計を依頼する場合、資格を持っていない人に任せられるでしょうか。
資格の有無によって会社としての信頼度が変わるため、建築士の資格を取得することはもちろん、できるだけ難易度の高い資格を取得しておきましょう。
建築士として独立する際に必要な資格は、二級建築士と一級建築士、木造建築士の3種類。試験の概要は下記の通りです。
二級建築士 | 一級建築士 | 木造建築士 | |
受験資格 | 実務経験7年以上の者 | 二級建築士として建築実務経験4年以上の者 | 実務経験7年以上の者 |
試験内容 | 学科
(五肢選択:100問/6時間) 1.学科I(建築計画)(25問) 2.学科II(建築法規)(25問) 3.学科III(法規)(25問) 4.学科III(建築構造)(25問) 設計製図 (1課題/5時間) 事前の公示課題 設計製図 |
学科
(四肢選択:125問/6時間30分) 1.学科I(計画:建築計画、建築積算等/20問) 2.学科II(環境・設備:環境工学、建築設備(設備機器の概要を含む。)等/20問) 3.学科III(法規:建築法規等/30問) 4.学科IV(構造:構造力学、建築一般構造、建築材料等/30問) 5.学科V(施工:建築施工等/25問) 設計製図 (1課題/6時間30分) 事前の公示課題 設計製図 |
二級建築士と同じ |
認定する人 | 都道府県知事 | 国土交通大臣 | 都道府県知事 |
できるようになること | 鉄筋コンクリート造、鉄骨造等で延べ面積が30㎡を超え300㎡以内の建築物の設計、工事監理 | 高さが13m又は軒の高さが9mを超え建築物、鉄筋コンクリート造、鉄骨造等で延べ面積が300㎡を超える建築物の設計、工事監理 | 1.2階建までの木造建築物で延べ面積が100㎡を超え300㎡以内の建築物の設計、工事監理 |
試験合格率(令和4年度) | 25.0% | 9.9% | 35.5% |
受験料 | 18,500円 | 17,000円 | 18,500円 |
特に一級建築士の合格率は高く一定の経験年数が必要なため、取得まで時間がかかります。
独立を検討する場合は、資格取得までに実務経験が積める職場を選び、いつまでにどの資格を取得するかを計画することが大切です。
2.実務経験を積む
資格取得にも実務経験は必要ですが、独立の際にも所定の実務経験が必要です。
例えば建築士の資格取得には、最長で11年の実務経験が必要になります。
資格を取得したからといって、実務経験がなければ現場で活躍できません。独立してからは案件を一人でこなす必要があるので、しっかりと実務経験を積んでいないと案件を受注した際に対処できず、作業効率が悪くなります。
経験によってこなせる仕事の幅も広がるため、実務経験を積んでおく必要があります。
3.独立する
資格を取得し、実務経験を積むことで独立が可能。
独立にはいくつかの方法があり、従業員を雇って開業する方法や、従業員を雇わずに個人事業主として働く選択肢もあります。
建築士が独立する場合、開業に関わる事務手続きや事業を進める上で必要な準備物などが出てきます。
従業員を雇う場合は、人件費などの必要資金が出てくるでしょう。独立において必要な準備については次で詳しく紹介します。
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独立する際に必要な準備3選|事前の準備が独立を成功へ導く
独立を検討する場合、準備すべき項目が3つあります。
- 建築士事務所に登録する
- まとまった資金を確保する
- 経理・経営の知識のつける
それぞれ詳しく紹介します。
1.建築士事務所に登録する
建築士が独立するためには建築士事務所の登録が必要です。建築事務所は3つの種類から選べ、取得している資格に応じて下記の3つがあります。
- 一級建築士事務所
- 二級建築士事務所
- 木造建築士事務所
無登録のまま業務をすれば、刑罰の対象となるため注意しましょう。
登録の条件は以下のとおり。
- 事務所の場所が確保されている
- 管理建築士が常駐で在席している
- 納税の証明が取れること
事務所は自宅でも構いませんが、従業員を雇うことが視野にあるなら、事務所を借りるほうが良いでしょう。
また、登録に際して必要な書類は以下のとおりです。
- 建築士事務所登録申請書
- 業務概要書(新規登録の場合は不要)
- 所属建築士名簿
- 代表者の略歴書
- 管理建築士の略歴書
- 誓約書(欠格要件などに該当していないこと)
- 定款の写し
- 履歴事項全部証明書(申請時3ヶ月以内のもの)
- 事務所の賃貸借契約書の写し(主に登記上の本店と異なる場合)
- 法人事業税の納税証明書
- 管理建築士の住民票
- 建築士免許証
- 管理建築士の前職場の退職証明書
- 管理建築士の専任証明
- 管理建築士講習修了証の写し
- 定期講習修了証の写し
項目にある管理建築士とは原則、建築士事務所に所属する建築士として3年以上の実務経験があり、管理建築士講習を受講する必要があります。
管理建築士を雇う場合は、建築士事務所の登録で管理建築士に関する書類が複数必要なため、あらかじめ用意しておきましょう。
これらの手続きを踏み書類を提出すれば、管理建築士事務所の登録が完了します。
2.まとまった資金を確保する
建築士として独立する場合、500万円程度の資金を貯めておきましょう。
ここではカテゴリごとの必要な項目についてまとめました。
カテゴリ | 必要項目 |
職場環境 |
|
備品 |
|
事務処理 |
|
その他 |
|
ここで書いた内容以外にも、開業手続きをする中で必要な項目が出てくると考えた方が良いでしょう。
建築士の仕事は専用の機材などの必要性は低いため、それほどお金は必要になりません。そのため、他の業種の独立と比べて必要資金の額は低い傾向があります。
しかし、独立を検討する場合はできるだけ多くの資金を貯めておくことをおすすめします。なぜなら、独立を検討してから実行に移すまでには準備期間や新規顧客の獲得を目指す期間があり、独立後にすぐ軌道に乗れるか分からないからです。
報酬を受取るまでにはかなり時間がかかるので、その間の生活費や従業員を雇う場合の給料などを支払えるように資金を保管しておく必要があります。
引用:[開業後の事業存続と倒産の動向]
上記のデータをみても分かるように個人事業所が独立した場合、最初の1、2年は廃業率が高く、安定するまでに時間がかかることが分かります。
半年程度は収入が入ってこないものと考えて、その間ある程度の余裕をもって生活できるくらいには資金を貯めておく必要があります。
3.経理・経営の知識のつける
建築士として独立する場合、建築士以外の知識が必要になります。それは経理や経営の知識です。
例えば、経理の知識がなければ確定申告などの納税処理の対応が難しくなり、経営の知識がなければ新規顧客の獲得や継続ができません。
独立するということは、会社の社長になるということ。
事業主として事業経営する知識として、売上や経費からどれだけの収入が見込めるか、経費の削減や仕事の効率化ができないかといった経営側の視点で事務所を運営する必要があります。
経理や経営の知識が充分にあれば、独立直後から売り上げを出すための施策に取り組め、年収を上げることが可能です。
独立を検討し始めたら、経理や経営の勉強を始めると良いでしょう。
独立すると年収はどうなる?|正社員との変化を比較
ここでは、建築士の平均年収について詳しく見ていきましょう。
正社員と独立した建築士では、平均年収が異なります。独立すると正社員よりも収入が増えるという話がありますが、実際のところはどのくらいの収入になるのでしょうか。
ここでは正社員と比較しながら平均年収を比較し、独立後に年収を上げるための方法について紹介します。
正社員建築士の平均年収|全業種の中でも高い
令和3年賃金構造基本統計調査によると、建築設計士の平均年収は586.2万円です。
建築設計士(建築士) | 全業種 | |
平均年収 | 586.2万円 | 443万円 |
参考:[令和3年賃金構造基本統計調査],[令和3年分 民間給与実態統計調査]
全業種の平均年収443万円と比較しても、140万円以上高い年収です。
資格取得の有無で平均年収にも差が出ます。種類によっても異なりますが、二級建築士の場合は平均でおよそ450万円、一級建築士の場合はおよそ600万円です。
一級建築士は取得難易度も高く、業務の幅が広いので企業からの需要が高くなるため、平均年収が高いと考えられます。
独立した建築士の年収目安|実力次第で平均年収を上げられる
独立した場合、下記の条件で年収が変わります。
- 従業員数
- 月に対応する案件数
- 月の労働時間
独立した建築士の平均年収は500万円程度で、正社員とあまり変わりません。
つまり、働き方によっては独立したからと収入が増えるというわけではないということ。
例えば、年収が億単位になったとしても従業員を10人以上雇っていれば、月々の人件費やそのぶん人件費などの経費もかかるので、最終的な手取りは低くなります。独立してから年収が1,000万円以上になったという人は経費の使い方や年収管理を徹底しています。
独立してすぐは経理の知識があまりないかもしれないため、目標金額を設定し自分がすべき項目を洗い出して対策することが大切です。
自分の努力次第で年収はいくらでも増やせますので、まずは正社員と同じくらいの収入が得られる程度の金額を目標に、独立するのがいいでしょう。
独立後に仕事の幅を広げるには建築士以外の資格を取得するべし
建築士として独立するには、一級建築士、二級建築士、木造建築士のいずれかの資格を取得すると良いと説明しましたが、仕事の幅を広げるためには、建築士以外の資格を取得することがおすすめです。
なぜなら、建築士の仕事は主に設計や工事監理ですが、別の資格を取得することで事業を拡大できるからです。
下記に、建築士の取得すべき資格と資格取得によってできるようになる仕事内容についてまとめました。
建築士が取得すべき資格 | できるようになること |
インテリアコーディネーター | 家具や住宅設備の設計デザイン
インテリア等の選定についての助言と提案 |
宅地建物取引士 | 不動産の購入に関する説明や助言、提案 |
1級建築施工管理技士 | 建築工事の施工管理業務 |
構造設計一級建築士 | 大規模な建築物の構造設計の受注 |
設備設計一級建築士 | 3階建て以上かつ5,000㎡を超える建築物の設備設計 |
このように、建築士以外の資格を取得すれば、規模の大きな案件の設計業務に携われるようになります。
また会社として案件が取れない時期であっても、派遣や業務委託として仕事に対応できるようになるため、独立初期の収入が安定しない時期の手助けにもなります。
会社に所属している間に複数の資格を取得しておくのがおすすめです。
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建築士として独立するメリット・デメリット
ここからは、建築士として独立するメリットとデメリットについて紹介します。
メリット | デメリット |
|
|
建築士として独立することで、正社員とは違ったメリットやデメリットが出てくるので、参考にしてみてください。
建築士として独立するメリット|自由度が上がる
独立する一番のメリットは自由に仕事ができるということです。独立することで会社の制約がなくなり、自分で仕事量を調整できるようになります。
ライフワークバランスを大切にしたい場合は、仕事時間を自分で調整することで休みを多くとることもできますし、逆に平均年収を上げたいのであれば、対応する案件の量を増やして経験を積むことも可能です。
正社員は1日の仕事量や最高収入に制限がありますが、独立すれば自分で仕事を作ることが大切。
経営の知識をつけて事業拡大に向けた施策に取り組めば、事業拡大も夢ではありません。建築士としての知識以外にも経営技術や手法を学ぶと良いでしょう。
建築士として独立するデメリット|不安定になる
独立するデメリットは、自分の生活が不安定になる点です。
独立すれば、仕事を獲得するのも自分の仕事です。会社員とは違って案件が無くなれば、いつでも無収入になるというリスクを抱えること。
日々、案件がなくなってしまうかもしれないというプレッシャーと闘いながら仕事をしなければならないのは、独立した方の大きなデメリットになるでしょう。
しかし、正社員の時と同じようにしっかりと努力が続けられる方であれば生活に困ることはほとんどありません。
独立したからといって努力を怠らないようにしましょう。
独立した建築士が安定して仕事を獲得するには?
独立した建築士は対策によって仕事の獲得率が変わります。
ここでは、独立しても安定的に仕事を獲得するための4つの方法を紹介します。
- 人脈を増やしておく
- HPやSNSを活用する
- 建築コンペや工務店やハウスメーカーとの協業を積極的に行う
- 独立・フリーランス向けエージェントを利用する
それぞれ見ていきましょう。
1.人脈を増やしておく
独立する前にできるだけ人脈を増やしておきましょう。人脈を増やしておけば、独立初期に案件を獲得する中で役に立ちます。
例えば独立を検討し始めた時期には、仕事で関わる人々に、自分が独立する予定があることを伝えておきましょう。
独立しているという情報が伝わっていれば、受けきれない案件を紹介してもらえたり、建築関連の人ではなくても思わぬところから案件の受注に繋がることがあります。
人脈を増やすことで知人から案件を受けられれば、自分で営業をして案件を見つける必要がないので、負担も少なくて済みます。
ただし、知合いだからと言って相場よりも安い報酬で案件を持ちかけてくる場合もあるため、事前に見積もり表を作成しておき、料金でのトラブルが起きないように対策しておきましょう。
HPやSNSを活用する
HPやSNSを活用して営業を進めれば、将来の顧客を獲得する手助けになります。
近年ではSNSから案件を受注するケースも増えています。SNSからHPなどの問い合わせに顧客を誘導すれば、企業情報や料金の目安などを把握した上で問い合わせをする顧客が増えます。
案件が眠っていないか探すだけでなく、自分の会社をブランディングするためにいろいろな情報を掲載するなどして、しっかりとフォロワーを増やしていけば、こちらからではなく、顧客のほうから案件の依頼が来ることもあります。
顧客との信頼関係を築ければ、継続的な案件に繋げることも可能。HPやSNSは第二の名刺として、会社の運営に役立てましょう。
しっかりと作りこむことで会社への信頼も上がり、案件受注の効果が見込めます。
建築コンペや工務店やハウスメーカーとの協業を積極的に行う
デザイン・設計力に自信がある場合は、建築コンペに応募して仕事を獲得しましょう。
応募しても選ばれなければ時間を無駄にすることにはなりますが、何らかのコンペで受賞できれば大きな実績となります。
実績ができれば、それを活用した営業ができるようになるため、今後の案件の獲得に大きく影響します。
いつか大きな案件を受注したいと考えている場合、コンペを活用して実績を作れば、将来的に大手の企業や大規模な建設事業に関われる可能性も高まります。
また実績をきっかけに、工務店やハウスメーカーと協業することで仕事をもらえるかもしれません。実力を証明するためにも、建築コンペを活用するのがおすすめです。
独立・フリーランス向けエージェントを利用する
独立して仕事を探す際は、フリーランスエージェントを活用しましょう。
なぜならエージェントはさまざまな案件を持っており、独立した人にとって案件獲得の大きな手助けとなるからです。
エージェントを介して取引が進められるため、発注側との報酬面の交渉ができたり、自分の能力に合った案件を紹介してもらえます。エージェントによっては受注後、工事の完成までフォローしてもらえる場合も。
営業の手間を減らし、将来の顧客になりうる案件に関われるチャンスは積極的に利用しましょう。
現在、さまざまなエージェントがありますが、「ビーバーズフリーランス」は、建設業界に特化したフリーランスエージェントです。建築士の方が求めている案件が多数あるので、興味がある方は一度ご相談ください。
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まとめ
今回は建築士が設計事務所を立てて独立するまでに必要なことや実際の年収などについて詳しく解説しました。
独立して成功するまでには苦労も多く、相応の覚悟や目標が必要です。
単にお金を稼ぎたい、楽をしたいという方であれば、正社員のほうが楽に多くの年収を稼げる可能性が高いです。
しかし、努力次第で年収を上げたり可能性を広げられるのは独立ならではの強みのひとつ。独立する場合は事前の準備をしっかりとすることが大切です。正社員として働く中でも、将来的に独立を検討している場合は準備だけでも進めておきましょう。
独立後、最初の頃はなかなか受注もできないため、まずは下請けとして働く必要も出てきます。SNSやフリーランスエージェントなども活用しながら、着実に少しずつ案件を増やしていきましょう。